京都大学森里海連携学教育研究ユニット「京と森の学び舎」を取材しました。

取材の印象

 対象年代を20〜40歳代に設定し、募集および受付もこの年代に限定するなど、どのような目的で、どのような人たちを育成したいか明確にした運営をしています。修了者には京都大学の研究ユニットのサポートがあり、講座修了者とともに発展したいという姿勢が、主催者から感じられます。

日 時:2019年8月27日(火)10:00~12:30
訪問先:京都大学 森里海連携学教育研究ユニット 赤石研究室
訪問者:松田直子,堀家沙里(認定NPO法人環境市民)

設立までの経緯

・地球環境問題の多くは,森林,河川,沿岸,海洋等の生態系間のつながりやこれら生態系と人間社会とのつながりが損なわれてきたために生じたのではないかという考察のもとに,これらのつながりを科学的に解明し,人と自然の関わり方を考え直すための新しい文理融合型学問として「森里海連環学」が生まれた。
・森里海連環学教育研究ユニットは,社会科学的な研究を行い,森里海の生態系の動きを基盤とした豊かな暮らしが,ダムや護岸工事等により分断されているので,由良川流域等をモニタリングしている。研究から得られたビッグデータを市民に伝え,社会と連携していく。

概要

・京都大学 森里海連携学教育研究ユニット(2020年からはフィールド科学教育研究センターが主催)が主催する「京と森の学び舎」は,2018年から若手研究者や社会企業家による,森里海や持続可能な社会づくりを目指す連続講座。市民とともに実装し,暮らしや働きかたを変えるインパクトを社会に与えることを目指している。
・自然保護に関する研究・保護活動の実践・保護すべき地域の人の暮らしの3つをキーワードに据えて,各分野の専門家を招き,参加者と対話型の講義を金曜夜18時半~20時半まで2か月に1回程度行っている。講座の修了後は任意で懇親会。様々な角度から地域の課題を学ぶ「フィールドワーク」を数回,南丹市美山町の京都大学芦生演習林等で3回行い,合宿もあった。
・講座は12月スタートで9月までの約1年間。修了者に「森里海コミュニケーター」の称号と修了証が渡される。その後,それぞれの活動(新規,発展系ともに)に対して,京都大学 森里海連環学教育研究ユニットのサポートあり。2018年の第1期は森・里山,2019年の第2期は海・川がテーマ。

対象

・先着順で,チラシにも若手(20~40代)と記載し、対象年齢を絞った。60代以上からの応募や問い合わせが多かったが,お断りしたという。
・都市部でサラリーマンをしている,環境や自然活動等に興味はあるけどアプローチのわからない方がメインターゲットで来てもらいたかったが,実際は数名であった。すでに活動している団体のリーダー的な方が多かった。
・チラシには,以下のような「つながり」を探している方と具体的な記載があった。①SDGs,レジリエンス,グリーンインフラ,企業人として持続可能な社会に必要な知識,情報収集の場,②企業・自治体・NPO・大学等同世代の多様な人材が集う場,交流の機会。③自然の中で頭と体を動かし,心身のリフレッシュの場,④都市と農村の交流,地域の再生,社会貢献への参加の機会

応募者数

・第1期生は20人定員で25名受付し,講座を修了したのは18名(高校生1名,社会人17名)であった。別途,京都大学の学生は先着順で5名が参加した。参加者は京都市内在住者をはじめ,演習林のある美山町等が多いが,奈良県や大阪の千早赤阪村からの参加もあった。

集客

・Facebookで有料(3万円)広告を,近畿圏で20~40代に向けて出した。美山町では,京大演習林もあり,山のガイドの人脈や口コミでチラシを配布した。エコネット近畿等のメールマガジン等にも募集案内を流した。
・今後,2期目からは1期生にも案内し、集客(Facebookでシェア)の協力を依頼する。

影響

・この学び舎をプラットフォームに,新しい森里海のつながりを作る活動を始めてもらうことを期待していたが、実際に修了生同士でいくつかコラボ企画が立ち上がっている。

効果

・第1期生の活動内容は「学び舎ノート」に報告されている。「学び舎」で得たことや現在取り組んでいること,今後の展望や学び舎の仲間と進めている活動などである。
・今後は2年間の約40人の森里海コミュニケーターと社会実走(実験)していくことを考えている。

運営

・京都大学フィールド科学教育研究センターが運営している。担当教員は主に二人で,徳地直子教授(森林生態系生態学)と事務局兼任の赤石大輔特定助教(生態学・里山再生学)。

経費

・人件費を除いて,学び舎は(公財)自然保護助成基金第29期の助成として,講座開催に約100万円(講師・会場代70万円,印刷物「学び舎ノート」1,000部で20万円,諸費等)を得ている。

その他

・内容や時間の組み立ては,石川県の能登里山里海マイスター(2019年より能登里山里海SDGsマイスター),愛媛県西条自然学校(月に1度金曜日夜に図書館に集まり,講座を開催)を参考にした。

以上