取材の印象
実施主体である「古材文化の会」のミッションと歴史的建造物の保全といった社会課題、参加者の関心、これらの実現を目指す姿勢が見られます。講座の回数も多く、受講者にとってハードルもありますが、取材時までの12期連続、毎回ほぼ定員の応募があるとのことです。修了後の活躍の場づくりも魅力になっていると思います。
日 時:2019年10月28日(月)15:00~16:30
訪問先:認定NPO法人古材文化の会 事務所
訪問者:堀孝弘(京都市ごみ減量推進会議),松田直子,堀家沙里(認定NPO法人環境市民)
設立までの経緯
・日本の住宅の多くが建設しては短期間の使用で壊す,スクラップ・アンド・ビルドの傾向が強いことに危機感を持った永井規男前会長たちが,1992~93年度,京都府林務課の「木質廃棄物再資源利用促進体制整備事業」の「古材リサイクル検討部会」で古材リサイクルのあり方について検討を重ねた。終了後の1994年9月に部会員を中心に,全国組織「古材バンクの会」を結成した。
・古材の情報バンク,優れた木造建築の普及啓発,伝統的木造建築物の再生や再利用の促進等の活動を進め,2001年4月にNPO法人化を行い,2005年3月に組織名称を「古材文化の会」に改めた。
概要
・2005年より認定NPO法人古材文化の会が4年間行った「伝統建築保存・活用マネージャー養成講座」を受け継ぎ,2009年から京都市,公益財団法人京都市景観・まちづくりセンター,一般社団法人京都府建築士会,古材文化の会の4者で構成する「京都市文化財マネージャー育成実行委員会」の主催により,講座(建造物)を開催。同会は事務局を担っている。
・人材育成活動としては,京都市文化財マネージャー育成講座(建造物)を12期,自主事業の伝統建築保存・活用マネージャー上級講座,京都府文化財支援コーディネーター養成講座(京都府,京都府教育庁,一般社団法人京都府建築士会,古材文化の会で実行委員会,事務局を担う)を開催している。
・講座は1月から7月まで14日間,およそ隔週土曜日に開催。歴史的建造物の保存と,それを生かしたまちづくりについて,講義と演習の2部で構成され,最後に班ごとに修了レポートをまとめ,総合的・実践的に学んでいる。
・のべ66時間で,基礎科目10時間,文化・技法関連科目16時間,保存・活用科目12時間,まちづくり関連6時間,演習16時間,講座終了課題6時間である。希望者のみ,初心者向け建物調査演習(ビギナーズ講座)を4月に実施している。
対象
・歴史的建造物の調査や保存・活用やまちづくりにかかわる意思を持っている方。先着順で,定員は36名である。
・受講生は工務店,設計士,瓦屋等建築関係を中心に,デザイナーや職人,京町家の住まい手,古民家に関心のある主婦や,リタイヤした方,学生等,一般市民まで多様な人材が参加している。
応募者数
・取材時までに12期開催したが,毎年定員に近い人数が集まっている。京都府や全国でも建築士会の活動で広がっているヘリテージマネージャー等類似する講座があるが,それよりカリキュラムの時間が多い。第11期は受講者35名のうち,修了者は23名で,12名は次期講座で再履修していただくことになっている。
・受講者は京都府内が多いが,滋賀や大阪、東京等他府県からの参加者が2割ほどある。
集客
・市民しんぶん,建築士会や古材文化の会の会報での呼びかけ等も行い,チラシも作成している。
・実行委員会のウェブやSNS,主に修了生等からの口コミで受講生を集めている。
影響
・会に登録された「伝統建築保存・活用マネージャー」のスキルアップと活動支援を目的として,2009年9月より3年間三井物産株式会社環境基金の助成を受け,「伝統建築保存・活用マネージャー上級講座」を開催している。修了生はお互いにネットワークを持ちながら,自主イベントを企画し活動している。卒業生がもっと活躍してもらえれば良い。現時点で講座修了者は約300名程度。
効果
・講座の修了生のうち,希望者は京都市の「京都市文化財マネージャー(建造物)」および古材文化の会の「伝統建築保存・活用マネージャー」に登録する。講座で学んだことを活かして,歴史的建造物の調査や保存・活用に向けた活動等,習得した実技を実践的な場で発揮することができる
・古材文化の伝統建築保存・活用マネージャー会は,KOMO(コモ)いう会を組織して,情報交換や活動を終了生が中心に,自主的に行っている。KOMOは古材文化の会と協力してNPO法人京都景観フォーラムと共同で「歴史的資産周辺の景観情報の充実事業」に取り組んでいる。
運営
・講座には「文サポ」と呼ばれる修了生によるサポーターを2~3名配置して,主に講義や演習のお手伝いや受付といった補佐的役割を担っている。講座外では受講生専用のインターネットの掲示板を活用して,受講生の修了レポート等の相談に応じている。
経費
・講座は京都市から年間200万円の分担金と,受講料3万円/人と併せて運営している。
その他(取材先団体の課題意識を伺いました)
・古材文化の会の会員を増やし,委託事業や助成金に頼らずに活動を持続的に運営する基盤構築を図りたい。
・歴史的建造物に対する保護意識の高まりを受けて,木造建築のサポートを着実に実現する能力や事業的な能力を持ったNPO法人に発展させたい。
・「木造建築サポートセンター(仮称)」を全国各地に創設することを検討中である。自主事業として,登録された木造建築をサポートする仕組みを独自に創設していきたい。