5.世界視野で「食品ロス」をみると

「5.世界視野で「食品ロス」をみると」のメニューは以下の通りです。食品ロスの削減は、日本のみならず世界の課題です。ところが定義が国によって違う場合がありますのでご注意ください。
世界で発生している食品ロスは13憶トンだといわれています。その内訳をみると、人口の少ない先進国の方が途上国より多くの食品ロスを出しています。発生する要因も先進国と途上国では異なります。
また、食品ロス問題は「もったいない」だけで済まない側面もあります。いつまでも食品ロスなんてだしていられない、そのようなことをお伝えします。
(この記事は、2021年に執筆しました。下記の記事のうち、特に、5-5「いつまでも食品ロスなんて出していられない」は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、より深刻になっています。)

5.1 食品ロス、食品廃棄物の定義
5.2 世界でどれだけ発生しているの?
5.3 先進国と途上国の発生の仕方を比べると
5.4 食品廃棄物を減らす効果
5.5 いつまでも食品ロスなんて出していられない
(記事中の図は、クリックすると拡大します。)

5.1 食品ロス、食品廃棄物の定義

まず、ややこしい話ですが、食品ロスといっても、日本と世界で定義が違います。FAO(国際連合食糧農業機関)は、細かく定義していますが、「世界の食料のロス 食品廃棄物の定義や統計は国によって、大きなばらつきがあり、国際的に合意された定義はない。」と報告しています。

日本ではこれまでにお伝えしているように、「食べられるのに捨てられる食品」のことを食品ロスと表現していますが、FAOの定義で、日本の食品ロスに相当するのが、食料のロス(food loss)と食料廃棄(food waste)にあたります。以下、できるだけ出典元の表現を用いて報告します。

5.2 世界でどれだけ発生しているの?

世界で約13億トンの「食料のロス、食品廃棄物(日本の食品ロスに相当)」が発生していることは、これまでにもお伝えしています(ただし、この試算は10年以上前に行われたもの(公表は2011年)ですので、現在はもっと多いかもしれません)。

この13億トンの内訳ですが、先進国6億7千万トン、発展途上国6億3千万トンとの試算が出されています。人口が少なく、輸送設備や冷蔵保管施設などが整備されている先進国の方が食品ロスを多く発生させています。

5.3 先進国と発展途上国の発生の仕方を比べると

先進工業国と発展途上国で、人口1人当りの食料生産量を比べると、先進国の方が倍近く多く生産しています(年間、先進国900kg:発展途上国460kg)。先進工業国の方が農業や漁業に従事する人の割合は少ないのに、これだけの差があります。先進工業国では、農業も多くの機械を使って工業化され、効率よく食料生産されている状況が浮かびます。

さらにいうと、ヨーロッパや北アメリカといった豊かな地域の人たちと、世界の中でも貧しい地域の人たちの食料廃棄量を比べると、10倍以上の差があります。

先進工業国と途上国で、食品廃棄物が発生している場所を比べると、先進工業国で最も多く発生しているのは小売り(販売)や消費段階で、およそ40%になります。一方、発展途上国で最も多く発生しているのは、収穫から加工、保管段階で、これもおよそ40%と推定されています。
発展途上国では、輸送インフラや冷蔵設備の未整備などが食品廃棄物が発生する大きな要因になっていますが、先進工業国では消費者の暮らし方、それを反映した小売り店の売り方が、食品廃棄物発生の大きな要因になっています。

物流の上流(生産現場)から下流(消費)まで一連の流れの中で、廃棄や無駄になる食品が、より下流で発生するほど、CO2発生量は多くなります。同じ量の食料であっても、生産・加工・輸送・保管と下流にいくほど(段階を経るほど)、それまでに多くのエネルギーを費やすからです。

5.4 食品廃棄物を減らす効果?

食料の生産には、多くの水、土地、労働力、資本が必要です。トラクターやコンバイン、輸送トラック、冷蔵設備を動かすためにも、多くの燃料が必要です。食品廃棄物の発生はこれらが無駄になることを意味します。
これらの無駄をCO2換算すると、その総量は、世界3位相当になるとの試算があります。

これほど多くの食品廃棄物が出ている一方、世界には栄養不足の人が8億人いるといわれています。ハイムーン氏の環境漫画がこの様子をよく表現しています。捨てるほど食べ物がある人たちにとっての「もう食べられない」と、今日生きていくための食料がない人たちの「もう食べられない」では全く意味が違います。

5.5 いつまでも食品ロスなんて出していられない

食品ロスを考える時、多くの人は「もったいない」という言葉を思い浮かべると思います。作ってくれた人たち、運び、調理してくれた人たち、さらには世界に栄養不足の人たちが多くいることを考えると当然のことです。
ただ「もったいない」だけで済まない切実な問題が、じわじわと迫っています。

下の図は約30年前(1993年)のおもな国の食料の輸出入額を比較したものです。「純輸入額」とは輸入額から輸出額を引いた額です。ドイツやアメリカなど、日本より食料輸入額の大きな国はありますが、それらの国は輸出も多く、輸出額を差し引いた純輸入額で、当時日本は世界で断然トップでした。

1997年のデータでも、日本は変わらず世界最大の食料純輸入国(金額ベース)でした。2位以下は年によって変動しています。

2000年に入っても状況は大きく変わりません。相変わらず、日本は世界最大の食糧純輸入国(金額ベース)でした。

2005年になると、少し状況が変わります。1990年代に食糧純輸出国だった中国が純輸入国に転じ、3位に浮上しています。

2010年ごろ、日本は中国にGDPで追い抜かれますが、ほぼ同時期、食料純輸入額でも日本は中国に追い抜かれます。その差は年々拡大していますが、日本の食料純輸入額に大きな変化はありません。日本の食料純輸入額が縮小したのではなく、中国の食料輸入が急拡大しているのです。

《参考》 1990年代中頃の資料ですが、当時世界の食料需給は、先進国が必要分より1憶トン程度余分に生産し、それを途上国に輸出または援助することで成り立っていました。当時の予測では2025年ごろにはこの傾向がさらに拡大し、先進国から途上国に2.3憶トン輸出・支援して世界の食料バランスが保たれるとしていました。

これまで世界から大量に食料を輸入していた日本でしたが、すぐ近くに、より多くの食料を必要とする強力なライバルが登場しました。経済さえ強ければ、世界のどこからでも食料を調達できるという時代でなくなりつつあります。
さらに、食料事情の不安定要素として気候変動があげられます。日本国内でも毎年どこかで大きな自然災害が発生し、その都度、多くの人的被害と農地の被害が発生しています。農畜産業従事者の高齢化も深刻で、耕作放棄地も増えています。

・冒頭にも書きましたが、この記事は、2021年に執筆しました。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、世界の食料事情は、より深刻になっています。食べられるのに捨てている「食品ロス」など、いつまでも出していられません。

 

まとめ

食品ロスは、先進国では小売り・消費段階で多く発生し、私たちの暮らしと大きな関係があります。
かつて日本は、世界でも飛びぬけて食料純輸入額が多い国でした。今では、中国が世界一。その差は開いています。そのうえ地球規模の気候変動や人口爆発など、世界の食料生産が不安定になることも十分考えられます。
いつまでも、食料の大量輸入ができるとは限りません。ということは、食品ロスなんて、出していられません。
食品ロスの削減は、 SDG’sの目標でも取り上げられ、世界は大きく動き出しています。特に注目はフランスです。パリ協定の採択を受けて、エネルギー転換、使い捨てプラ容器削減、食品ロス削減を一体的に進めようとしています。参考になるところを採り入れたいものです。

食品ロスの削減は世界的な課題となり、民間活動も含めて、様々な工夫を取り入れた取組が推進されています。さらに大きく伸ばしていく必要があります。

ごみ減の食品ロス関連情報
1.食品ロスの基礎知識
2.食品ロスと環境問題
3.食品ロスを身近に感じる伝え方
4.どんな食べ物を捨てているか
5.世界視野で「食品ロス」をみると
6.食品ロスを減らす取組