ハイムーン漫画から学ぶ環境問題12「犯人は誰だ」

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【ハイムーン先生の環境漫画の説明】

 今回の絵には深いテーマが込められています。ハイムーン氏の環境漫画はホノボノとしたものや、日常生活の中で見落としていることを、「はっ」と気づかせてくれるものが多く、そのため多くのファンを得ています。ただ、それだけでなく、政策の不備や事業活動の問題などに踏み込んだものもあり、そういった警告を「さりげなく」発してらっしゃるところに、ハイムーン漫画の奥深い価値や魅力があります。

 今回の漫画のテーマは経済活動における事業者責任。「拡大生産者責任(Extended Producer ResponsibilityEPRと略されます)」という言葉を、ぜひ頭の片隅に記憶しておいてください。生産者の製造物(商品)に対する責任を、ごみになった後まで拡大することを「拡大生産者責任」と呼んでいます。
さて、漫画の中に登場する「共犯者」のポイ捨てを防ぐ手立てとして、幾つか対策をあげることができます。「モラルに訴える(啓発・教育)」「違反者を処罰する(規制的手法)」がありますが、その他に「経済的手法(または経済的誘導)」があります。EPRはこの経済的手法の一つです。「ポイ捨てを防ぐ」方法には、デポジット・リファウンド制度もあり、これも経済的手法の一つです。
 モラルに訴える啓発活動や、規制強化ばかりを求める活動を続けていると、限界を感じ、シンドクなってきます。環境活動や環境教育に取り組んでいて、その先に目指すものは何か、環境先進国と呼ばれる国とそうでない国との違いは、国民の意識や環境技術だけなのか、そんな奥深いテーマがこの漫画から読み取れます。

 さて、日本にEPRの導入が検討された1990年代前半、これを「企業いじめ」と表現した人もいました。「事業活動は厳しいのに、そのうえ環境のために利益を削れというのか」という人は今もいます。果たしてそうなのか、ぜひ皆さん、考えてみてください。
 「その通りですね。」と答える人。素直な性格が素敵です。
 「そんな難しいこと、私にはわかりません」と答える人。もっと素直ですね。
でも、事業者責任がしっかりしている国の方が、新たな産業が生まれていることなど紹介できたら、かなり素敵です。聞き手に未来への展望を与える話ができるようになれば、完璧に素敵です。

【グラフと写真の説明、背景情報】

 今回はグラフと写真を掲載しています。左のグラフは、京都府亀岡市に本拠を置くNPO法人プロジェクト保津川の調査によるもので、保津川支流での川ごみ調査で集めたごみを分析したものです。プラスチックごみの多さが目立ちますが、その中でペットボトルは、常に上位を占めます。
 写真は、東京都江戸川区に本拠を置くNPO法人荒川クリーンエイド・フォーラムから提供を受けたものです。荒川河口から3kmほど上流の光景で、雨が降った後など上流から大量のプラごみ、特にペットボトルが集まってきます。いずれも、リサイクルの仕組みが整備された後の光景です。
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 さて、こんなに放置、散乱しているプラごみ、特にペットボトルをどうしましょう。すでに放置・散乱したものは拾って回収するしかありません。でも、そのためには膨大な労力が必要です。プロジェクト保津川や荒川クリーンエイド・フォーラムのスタッフやボランティアさんたちは、泥にまみれてたいへんな作業をしています。

 

回収も大切ですが、「放置」が起きないようすることも大切です。その方法の一つとして、先に述べた「デポジット・リファウンド」があります。簡単にいえば「預り金制度」。例えば、100円の商品に10円を上乗せして販売し、空き容器を販売店に返したら10円が戻ってくる制度。ひと昔前は飲料容器などで当たり前でしたし、ヨーロッパなどでは駅や空港のカートなどにも応用されています。返した人は損はしませんが、返さなかった人は、預かり金分を損します。これでポイ捨ては減りますが、ゼロにはなりません。ボランティアで空き容器を回収した人は、その容器に上乗せされている「預り金」を正当な権利として得ることができます。もちろん数十本回収してもたいした額にはなりません。それでもチリも積もれば山となります。ポイ捨てされた空き容器の「預り金」は、商品の利用者に返されず、年間、国全体で、ものすごく大きなお金になります。このお金を様々な社会対策に活用できます。

でも、「デポジットなんて、また店に返さないといけないしメンドウ」と思う人もいらっしゃると思います。ネットやコンピューター技術の進歩で、国中の販売店のレジと回収機を結んで、様々な事業に役立つビッグデータを収集し、活用している国があります。その1つが東欧バルト三国のエストニア。プロジェクト保津川の代表原田禎夫さんは、毎年この国に行き、調査されています。前述のように購入者に返されずプールされた「預り金」は、おもにシングルマザーの支援に活用しているそうです。エストニアは、このようなシステムを、システムごと外国に販売するなど、先行者利益をあげています。

日本では自動販売機など、すでに飽和状態です。自動回収機に力を入れれば、別の需要が生まれます。スウェーデンの人が言っていたことですが、「飲料自販機なんて見たことないなぁ。自動回収機なら、どこにでもあるけれど…」。技術の使いどころが違います。